新しき


踏切を越えた先。

実篤の理想を型にする、野心を具現化した小さな共同体。

現在は20人ほどが暮らしているという、この小さな理想郷には過去数回訪れている。

近辺を通りかかった時に入り口への看板に母が気づき、その存在を知らされた。

名前のみ知る存在だった「新しき村」に、足を踏み入るきっかけは母だった。


最後に訪れたのは、もう4年程前になるだろう。

過去と想いと重なる記憶が、その期間を確証する。



思想や主義とは関係無く、この小さな「村」が気に入っている。
時折訪れて、意味を求めず、ただ居たい、と思うことがある。


踏切の先、二本の門柱を抜ける道はクルマ一台が走行可能な道幅。

珍しく壮年ハイカーの集団が訪れるところだ。
クルマの音に気づかず、仕方ないので歩行者の後ろを歩くスピードで走る。

短いその区間が終わる頃にガイドの男性が気づき道を譲るも、すぐさま左折して駐車場に入り、何となくがっかりされて、逆に申し訳ない気分になる。


止めた場所にある建物にはかつて売店が入っていたはずなのだが。真新しい自動販売機が寂しさを引き立たせている。

課税方法か何かで自治体といろいろあったというニュースを聞いていたので、つい関連付けて「何か良くない出来事があったのでは」、といらぬ妄想をしてしまう。


見ると「売店は食堂にあります」という貼り紙。


少しだけ先に、もう一つ駐車場があることを思い出し、そちらへ移動してみる。


ちょうど出て行く一台と入れ替わりに駐車し隣にある建物を覗いてみると、入り口付近に農作物などが並べられていた。

以前置かれていた村の関連書籍や実篤の絵がパッケージになったチョコレートなどは置かれていいない。

代わりに赤飯、手づくりの饅頭など、以前は見なかったものも。

季節柄、柚子も列ぶ。
ある意味、この方がこの場所に似合っているような気もする。


無農薬米、饅頭二個、卵二袋、赤飯を購入する。

会計は小銭を使い古しの茶筒に入れる方式だが、生憎持ち合わせがない。

中にいたおばさん二人が丁寧な対応で用意してくれた紙袋に品物を収め、紙幣で支払いを済ませる。

饅頭一つを手に、残りは車に置いて周囲を散策しに歩き出す。