むかし


寺院の敷地から出ると、右手に先ほどの家族連れが目に入る。

しばらく墓参の様子を見つめ、野球少年と目が合うのと同時にその場を後にする。


水路に寄り添う緩い坂道を下る。

父の友人の実家の向かいにある古い木造家屋から、お婆さんとその孫が現れ、道を横切る。

そして向かいの家に。

この2人は友人の血縁の方だろうか。

玄関の中から、孫と思しき小さな女の子が僕を見つめる。

僕をどんなふうに見ているのだろうか。

僕は君の伯父さんの友達の息子、かもよ。


県道に戻り、話に聞いていた米穀店を覗く。

営業はしているが、人影は無く。

なんとなく、心の中でお礼をする。

若い頃の2人が、お世話になりました。


その向かいには、朽ちかけた木造の門構えの建物。

既に閉めて長い年月を経ているようだ。

酒屋、もしくは酒蔵だろうか。

門と同じように朽ち果て、色を失った「酒林」、杉玉が、寂しく下がっている。

いったいどんな道を歩んできたのだろうか。

どんな景色だったのだろうか。



先ほどの緩い商店の脇の道を入ってみる。

側溝に張られた金属製の格子の奥から聞こえる水音を跨ぎ、先へと進む。

すぐに馬淵川に突き当たり、川沿いに駅方面へと進む。