かれに

水量が多いのか。道に沿って流れる水路からのせせらぎ。街道を走る車のパターンノイズ。風にそよぐ木の葉の擦れる音。自分の靴音。 自分の住む街の深夜のようで。けれど眩しい日差しと乾いた空気を肌で感じ。違和感が喜びに感じられる。 道の突き当たり。寺…

その後

「事件」の方は無事に処理を終える。後から明らかになる事実があったり。気付かないこちらも悪い。それも事実。信義則に従い職務を遂行するのが当然の職種。 故に内側には注意が足りなかった。相手方の社長さん。 予定を全てキャンセルして対応して下さった…

生まれてから最期まで

初めて家に来た猫は、一駅隣の駅前で父が拾ってきた白い長毛の子猫。近所の猫との喧嘩で負った傷が悪化し、三年程で旅立ってしまった。 次にやって来たのはキジの雌猫。なんとなく居ついた。そいつが産んだ子猫が六匹。その内二匹は里子に出した。うち、一匹…

そして

祖母が亡くなったとき、早くに亡くなった祖父の骨とその名が刻まれた墓誌を、盛岡に新たに建てた墓に移した。以前訪れた時に迷い込んだあのお寺が、その元々家が檀家だった所だと、帰宅後に母から聞かされた。 あの急な石段を、叔父達はあの墓誌を担いで降り…

隠れた、瑕疵

職員が一人去った。卑屈な男だった。 その理由が原因だった。 重度の障害を持つ子がいて、それを理由に時々仕事を休んでいたが、その日に不正をおこなっていた。 取引先の社長が偶然それに気づき、その方から何度か自ら所長に相談するように説得されたにもか…

きおく

橋を渡り、街道は左に折れる。 その目の前にはかつての映画館、今は寄席になっている、その脇に左手に細い道が通る。水路を覆う側溝の蓋の隙間から、せせらぎが聞こえる。 その先に、かつて三浦哲郎が住んでいたらしい、と母は話ていた。「忍ぶ川」の主人公…

西の空に虹が見える。 目が弱いので日射しの強い日中はサングラスをかけているが、そのせいかはっきりと見える。ふと太陽を見上げると、その周りに大きな円。 取り囲む虹。 嬉しい。

さがす

人影の無い小さな寂れた街。旧、となってしまった街道を下り、父の生まれ育った当時の面影を感じる。話に聞くのはあまり良い思い出ではないけれど、僕は僕の感じ方でこの景色を焼き付ける。突き当たりの急カーブの手前の橋。 よく話に出てくる古い橋だ。今で…

まよう

再び訪れたこの小さな街は、まだ眠りに就いているような静けさだ。 太陽を斜めから受けて輝く寂れた街並みは、幼い頃の夏の記憶を揺り起こしたのだろうか。以前はあまり目に留まらなかった路地や建物が、何故か心に触れる。この街らしらを感じさせる水路が家…

けいい

批判は相手に対する敬意の表れだと思っている。しかし、信じるという前提を殺された後、常に疑う事を考えなければならない苦しみは、次第に感情を腐らせる。 明け方まで考え事をし、言葉を探す。 午前6時前に宿を出て駅の時刻表を眺め、始発、というか、目的…

おもい

山の影に隠れた夕陽がまだ雲を染めている。雲の色は鮮やかさを増し、それを眺めながら橋を後にする。先ほど素通りした家電量販店に立ち寄る。気になっていたペンタックスのオート110に似たデジカメを眺めるも、やはり思い留まる。見た目だけでも欲しいけど。…

かすみ

小休止の後、再び街へ出る。宛も無いので日が暮れていくのを見届けようと、マリオスの展望台に向かってみる。駅の地下に新しくできた通路を初めて通る。そこだけはひんやりとした空気が充満し、真夏の陽気に落胆していた僕に、違う街にきた事を教えてくれる…

たどる

事あるごとにやってくる。 別にここで生まれたわけでも育ったわけでも無いけれど、何故か帰ってきた、と感じる。 あいかわらず乗り気の無いまま、9時過ぎに家を出る。切符を買うまでに一本乗り過ごし、一番早いはやては一時間待ち。喫煙室で煙草を吸いながら…

らせん

何時かの風の強い日。 雲の切れ間から時折覗く太陽を眺める。その周りを何層かの雲が渦を巻くように流れ。それを見上げるうちに平行感覚を奪われ、立ち眩みのような感覚を覚える。一歩たじろぐように後ろに下がり、足下に視線を移し肉体の感覚を取り戻す。 …

されど

以前の日記で事あるごとに「言葉嫌い」であることを書いてきた。それだけ言葉にとらわれているにもかかわらず、ずっと言葉から逃げてきた。こうしてここに書き続けることは、どんな意味があったのだろうか。 今、ある事をずっと考え続けている。それを言葉に…

さんぽ

晴れた日も、風の強い日も、どんなに辛いことがあった日も、散歩には行く。そんな生活も、もうすぐ10年。いなくなれば、きっと寂しい。 そんな書き出しで昨年の11月から日記を書き始めて、もう半年。 先月の20日に過去の日記は全て失われてしまった。 やむを…

えがお

9年間真剣に付き合った彼女と別れた後、1人で氷点下の盛岡市内を一晩中歩きまわる。その時の事を、よく思い出す。 彼女には親友と呼べる友達が1人いた。一度会ったきりで、あとは彼女から聞いた話だけで知る存在。とても魅力的な女性だった。生まれつき内臓…

ううあ

オススメの曲をダウンロードしてみる。UA/モンスターアレンジやヴォーカルの魅力もさることながら、あらためて聴く歌詞が新鮮な印象。70年代の歌謡曲の歌詞は、どこか優しく温かみを感じる。今の自分には、今の自分だから感じられる意味。 いろいろな事を…

いのち

プラネタリウムに行く。しかし「特別プログラム」で予定とは違う内容で少し肩すかしをくらった気分。でも前提知識として本編がより楽しめるのでは、と期待する。プロジェクトマネージャの川口氏のインタビューをメインに「はやぶさ」の解説をする、という形…

たぬき

初夏の日曜日、キャンパスを埋め尽くす人。自分にとって3度目の夏。 その一日の為に仕事を辞め、同じく仕事を辞め海外に1人留学した彼女との約束を。 発表は通知の葉書を待たず、不合格の確認をする為に竹橋にあった合同庁舎へ。薄暗いホールの奥、突き当た…

きざし

以前就いていた仕事の資格試験の資料として取り寄せた各種学校のテキストが届く。就いていた、といってもアシスタント程度で、法令はともかく他の部分が大の苦手な科目で。テキストを開いただけで頭痛がしてくる。苦手というか、むしろ嫌いなのだか、理解し…

ひざし

湿度の無い温かい日。幸せを感じていた頃に景色に彩りを与えていた木は、強い日射しを遮る場所へと役割を変えていた。 いくら歳を重ねても、人を裏切ることも、人に裏切られることにも、慣れることはない。 それを同時に行ない、経験し、この数週間で体が一…

となり

隣から正面に向かい合う。問いかける言葉。受け取る言葉。そこに感じる意味は、自らを映す。 育てられた自分。育ててくれたひと。 育てられた部分が、そのひとに向かい合う。

されど我らが日々是好日

激しい感情の起伏の後に訪れるのは、いつも深い水の底のような静謐と闇の中だ。感情の高まりは無く、理性だけが自分を支配する。この循環を幾度と無く繰り返し、今まで生きてきた。 深い水の底から見上げる水面の、僅かな輝き。 それに引き寄せられる心の動…